BOEING B747-400


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概要

B747-400は、アメリカを代表する航空機メーカーであるボーイングが開発した一部2階建ての超大型4発機である。
「ジャンボ」の愛称で知られるボーイングB747の新世代モデルとして、2階席が延長されたB747-300をベースとして大幅改良を加えた。
コクピットをハイテク化して2人乗務とし、翼端にはウィングレットを装着して航続距離を13000kmクラスと伸ばし超長距離路線を開拓した。
1987年から2009年にかけて貨物専用の400F型や日本国内線向けの400D型、軍用派生型を含め633機が生産された。
まだ冊子の時刻表が主流だった1990年代から2000年代前半、フラッグシップでの運航を示す「744」や「B44」の表記がまぶしく輝いていた。

解説

本機種はボーイングが満を持して投入した新型機B757とB767のデビューが一段落した1985年にノースウエスト航空(現デルタ航空)の発注により開発がスタートした。
B747は超大型旅客機として世界唯一の選択肢として順調に販売を伸ばしていたが、ボーイングのラインナップにおいて新世代化が遅れていたことは確かであった。
当時、航空機関士が必要な旧世代のB707とB727を事実上廃止し、中小型機はグラスコクピットのB767・B757・B737クラシックが一通り揃った段階にあった。
2階席の延長がエリアルール効果によってむしろ空力的に改善となったB747-300をベースにすることに異論はなく、主翼と胴体をつなぐフェアリングを滑らかな形状に改良し、さらに本機種のトレードマークと言えるウィングレットを装着して経済性を徹底的に詰めていった。
このコンセプトは世界各国、特にヨーロッパとアジアの主要航空会社から支持を集め、並ぶもののないキャパシティと長い航続距離を武器に600機を超える受注を獲得した。
当初は在来型のB747クラシックと両方を生産していたが、ほどなくして貨物型含めて受注が400型に集中するとクラシックの生産は終了した

エンジンはB747クラシック同様にジェネラルエレクトリック(GE)、プラットアンドホイットニー(PW)、ロールスロイス(RR)の3社から自由に選択できた。
3社のエンジンはすべて電子化を進めたFADEC対応になりクラシック型との互換性はなく、日本航空(JAL)のようにゼロベースの選定を行いエンジンメーカーを変更した航空会社も多かった。
GE CF6-80、PW4000、RR RB211-524と本機種で採用されたエンジンは、同じボーイングのB767だけでなくエアバスやマクダネルダグラスでも派生型が採用されて世界標準の地位を獲得したといっても過言ではない。

コクピットはB757とB767で導入されたグラスコクピットをベースにさらに電子化を進め当時最新鋭のものを導入し、ダグラスやロッキードといったライバルを決定的に引き離した。
客室はB747-300から基本構造を受け継ぐが、頭上の荷物入れを大型化しエンターテインメントシステムのための電気系統を強化するなどこちらも新世代化に余念がなかった。
エコノミーで3-5-3の11列配置が可能な構造にはなっているが実際に採用した航空会社はなく、フラッグシップ機ということもありB747クラシックと変わらない3-4-3の10列配置でシートピッチも広めにしたところが多かった。
ファーストやビジネス、2000年代に入るとプレミアムエコノミーといった上級クラスは1階席前方のA・Bコンパートメント、もしくは2階席に配置されるのが主流である。
ボーディングブリッジは1階席左舷前方のL1・L2ドアに接続され上級クラスとエコノミーで動線を分離できたほか、隣のゲートから右舷R1ドアに接続することで乗降のスピードアップを図った空港も見られた。

B747-400は後継機B747-8の開発に伴い、2009年に最後の機体を引き渡して生産を終了した。
しかしながらB747-8の発注は芳しくなく、自社のB777-300ERがほぼ同じキャパシティを持ちながら経済性で圧倒的に勝るためそちらに共食いされるイメージが強かった。
ライバルのエアバスも長距離4発機のA340をラインナップしていたが、双発のA330に押される形で生産終了し超大型機のA380スーパージャンボだけが残る形になった。
そのA380も辛うじて黒字転換こそしたものの2021年で生産終了が決まり、B747-8も新エアフォースワンを最後に終了となる公算が高く、本機種が「大成功を収めた最後の超大型旅客機」として歴史に残りそうだ。
世界最大の民間貨物機アントノフAn-225「ムリヤ」の名前のように超大型機には夢があるが、夢だけでビジネスが成立しない時代になってしまったことに寂しさを覚えつつ仕方のないことなのかもしれない。


テクノエア B747-400
テクノエア B747-400 (ぼくは航空管制官2)

テクノエア DC-10
ヘルパウイングスクリスマスモデル2006 B747-400F

派生型

B747-400

1989年にノースウエスト航空へ初納入された旅客型の基本となるモデルで、B747-300の基本設計を受け継ぎつつ各部を一新している。
最も製造数が多く、エンジンはGE CF6、PW PW4000、RR RB211の3種類すべてのタイプが存在する。
翼幅はウィングレットが追加された分だけB747クラシックよりも大きくなり、ICAOのコードE(65m)ほぼいっぱいとなる64.4mに達する。
機体左舷後部に貨物扉を備える貨客混載型のB747-400M(コンビ)もクラシックから引き続き設定されている。
日本航空(JAL)が34機、全日空(ANA)が12機のほか、航空自衛隊が政府専用機として2機導入した。
後述するBCFやBDSFと呼ばれる貨物機改修も盛んに行われており、旅客運航される機体は急速に減りつつある。


B747-400F

元から貨物型として生産されたタイプで、貨物搭載量を優先した結果2階席の短いB747-200Fをベースに同様の新世代化を施している。
旅客型から改修された機体と異なり、機首部分に上開きの貨物扉を備え長尺貨物の搭載ができることが大きなアドバンテージとなる。
B747-400旅客型と同様、エンジンは3社すべてのタイプが存在する。
1993年にカーゴルクスへ初納入され、以来世界中の貨物エアラインで主力機として活躍している。
国内ではJALが2機、日本貨物航空(NCA)が8機(10機発注したが2機は受領せずそのまま他社へリース後売却)導入している。


B747-400D

1991年にJALへ初納入された、B747SRの流れをくむ日本国内線向けの短距離特別仕様機である。
短距離路線では恩恵が少ないためウィングレットを装備していないことが外見上最大の特徴である。
日本の2社(JALとANA)しか発注せず、両者ともにCF6エンジンを選定したためPW4000とRB211のモデルは製造されなかった。
ウィングレットの脱着をメインとして通常のB747-400と相互改修することができ、実際にANAで4機が改修された。
JALが8機、ANAが11機(さらに400型からの改修で2機追加)導入し、560席程度を擁する国内線フラッグシップとして運航された。
JAL・ANAからの退役後は元々400型だった2機は貨物機改修されたものの、離着陸回数が多いこともあって中古機売却にはならず部品取りとして解体されている。


B747-400ER/ERF

最大離陸重量を引き上げて航続距離や搭載量を伸ばしたモデルで、旅客型(400ER)と貨物型(400ERF)の双方が存在する。
旅客型はカンタス航空(QFA)が唯一のカスタマーであり生産は6機に留まった。
貨物型はNCAが発注していたが受領せず他社へリース、売却されたため日本国内の航空会社で運航された実績はない。


B747-400BCF/BDSF

旅客型や貨客混載型から全貨物型に改修されたもので、改修事業者によってBCF/BDSFと名称は異なるが内容的にはほぼ同一である。
400Fと異なり2階席部分は旅客型の長いものをそのまま残しているため、機内前方の天井が低く搭載量は若干少ない。
また長尺貨物に使われる機首部分の貨物扉は装備しておらず、左舷の貨物扉から搭載できるコンテナやパレットに限られるなど運用面では劣るが、新造貨物機と比較すると圧倒的に安価なため支持を伸ばした。
国内ではJALが6機(うち1機は貨物専用機事業撤退により運航しないまま売却)改修している。


B747LCF

「ドリームリフター」と呼ばれB787ドリームライナーの胴体や主翼・尾翼など大型部品を世界各地のサプライヤーからエバレット工場に運ぶための特別貨物機である。
旅客型B747-400の胴体上部に、大きく膨らませた貨物室を新しく製作し切り継ぐ形で改修されたため特異な外観をしている。
よく「ボーイング版ベルーガ」とも言われるが、ベルーガの先代はB377ストラトクルーザーを改造したスーパーグッピーであったためこちらが本家になる。
ベルーガやスーパーグッピーと異なり大型貨物の搭載は機体尾部に設けたヒンジドアから行う。
400D型と同じくウィングレットは装着せず(異常振動の原因になったため)、4機が運用されており中部国際空港でもおなじみの機体になっている。


YAL-1

軍用航法装置などを装備する以外は実質的に民間型と同じである政府専用機(日本・韓国)を除くと、軍用モデルとして生産されたのはYAL-1が唯一になる。
アメリカ空軍が開発していた、高出力のレーザーによって弾道ミサイルを迎撃するシステムの試験機としてB747-400Fをベースに製造された。
順調に実験が進めば7機が配備され二方面展開が可能な計画であったが、2010年代に入ると開発難航を理由として計画が中止された。
2014年には通常の軍用貨物輸送機へ転用されることなく機体そのものが解体された。


未成計画

B747-400の発展型計画として、航続距離を延長するB747-400X、B747SPのボディに同様の新世代化を盛り込むB747ASB(Advanced Short Body)、大型化するB747-500X, -600X, B747X, B747Xストレッチなどが航空会社に提案されてきたが、B747-400X(B747-400ER)とB747X(B747-8)を除いてローンチには至らなかった。
大型化タイプでは全長80mオーバーに達するものもあり空港側の受け入れが整わないことが一つの要因であった。[2]


発展

B747X計画の具現化として、全長を76mと少し延長し、B787にも採用されたGEnxエンジンを搭載することにより運航効率を高めたB747-8がローンチした。


スペック
B747-400 B747-400ER B747-400D B747LCF
全長 70.6 m 71.7 m
全幅 64.4 m 59.6 m 64.4 m
全高 19.4 m 21.5 m
巡航速度 933 km/h 878 km/h
航続距離 13,450 km 14,205 km 2,905 km 7,800 km
最大離陸重量 396.9 t 412.8 t 378.1 t 364.2 t
エンジン GE CF6-80C2B5F 28,170 kg ×4
PW PW4062 28,710 kg ×4
RR RB211-524H2-T 26,989 kg ×4
GE CF6-80C2B1F 20,294 kg ×4 PW PW4062 28,710 kg ×4
座席数 410〜530 570 N/A

主要カスタマー
日本

日本航空
400/400D/400F型 (1990-2011 発注44機/運航44機)

全日空
400/400D型 (1990-2014 発注23機/運航23機)

日本貨物航空
400F型 (2005-2019 発注10機/運航8機)

航空自衛隊(政府専用機)
400型 (1991-2019 発注2機/運航2機)

日本エアシステム
400型 (発注9機/運航せずキャンセル)
アジア

キャセイパシフィック航空
400/400F型 (1989- 発注31機/運航48機)
イギリス領時代から愛用したジャンボも貨物型を残すのみ。

大韓航空
400/400M/400F/400ERF型 (1989- 発注46機/運航46機)
発展型のB747-8旅客型も導入した数少ないエアライン。

シンガポール航空
400型 (1989-2012 発注43機/運航43機)
最新鋭機材を短期間で入れ替える中で息の長い機材だった。

チャイナエアライン
400/400F型 (1990- 発注39機/運航39機)
アジアでも希少になりつつある旅客型ジャンボ。

エバー航空
400/400M/400F型 (1992- 発注18機/運航18機)
本来は太平洋線機材だが間合いで日本にも投入されていた。

アシアナ航空
400/400M/400F型 (1991- 発注15機/運航18機)
お隣の韓国でも旅客型は引退が秒読み段階にある。

エルアルイスラエル航空
400/400F型 (1994- 発注4機/運航8機)
ボーイング一色のフリートにおいて必然的な導入だった。

翡翠航空
400ERF型 (2006-2012 発注6機/運航6機)
インパクトのある塗装で人気だったがわずか6年で運航停止。

オアシス香港航空
400型 (2006-2008 運航4機)
元ANAの機体が短期間ながらも活躍した。

ガルーダインドネシア航空
400型 (1994-2017 発注2機/運航3機*)
正規フリートよりも他社からのハッジリース機材が目立った。
ヨーロッパ

ブリティッシュエアウェイズ
400型 (1989- 発注59機/運航59機)
ユニオンジャックをはためかせ飛ぶ最大カスタマーの一つ。

ルフトハンザドイツ航空
400/400M型 (1989- 発注31機/運航31機)
JALとともに鶴マークをまとったジャンボとして有名。

カーゴルクス
400F/400ERF型 (1993- 発注15機/運航27機)
貨物型のローンチカスタマーになりクラシック機を更新した。

エールフランス
400/400M/400ERF型 (1991-2016 発注20機/運航24機)
トリコロールのジャンボは日本でもおなじみの機体。
北アメリカ

ユナイテッド航空
400型 (1989-2017 発注44機/運航44機)
導入時から4世代のカラーリングをまとった。

ノースウエスト航空
400型 (1989-2008 発注16機/運航16機)
400型のローンチカスタマーで日本路線でもおなじみだった。

デルタ航空
400型 (2008-2018 運航16機)
旧NWAの機材を引き継いでフラッグシップとして運用。

ポーラーエアカーゴ
400F型 (2000- 発注5機/運航9機)
旅客型からの改修ではなく全機がノーズカーゴドア装備。
オセアニア

ニュージーランド航空
400型 (1990-2014 発注5機/運航8機)
オセアニアは地理的に長距離機材の需要が高い市場だ。

エアパシフィック
400型 (2003-2013 運航2機)
珊瑚礁の島から飛んでくる虹色のジャンボ。
その他

ボーイング/アトラス航空
400LCF型 (2006- 運航4機)
B787のパーツを輸送する専用特別貨物機。
* 短期リース機および、部品取りのために取得し実際に運用されなかった機材を除く

事故・インシデント

B747-400では数件の大事故が発生しているが、機体故障により引き起こされたものは就航から30年が経過した現在もなく安全性としては非常に優秀と評価されている。
以下では日本国内で発生したもの、日本発着便が関係したもの、社会的に大きく影響を与えたものについて記す。


日本航空907便 駿河湾上空ニアミス事故

2001年1月31日、日本航空907便のB747-446D(JA8904, 1992年製造)と同社958便のDC-10-40(JA8546)が駿河湾上空11000mで空中衝突寸前の状態になり、回避操作によりB747側で約100名の負傷者が発生した。
管制官が回避指示を出す機体を誤ったことを主とする複合的な要因により発生したと事故調査では結論づけられたが、TCASと管制指示が矛盾した場合の規定がなかったことも大きい。
事故後TCASを優先することが明文化されたが、1年半ほど後の2002年7月1日にスイスとドイツの国境付近で同様のTCASと管制指示が矛盾したことによる空中衝突事故が発生し教訓として活かされなかった。


日本航空502便 新千歳空港重大インシデント

2008年2月16日、日本航空502便のB747-446D(JA8904, 1992年製造)と同社2503便のMD-90(JA8020)が新千歳空港01R滑走路上で衝突寸前になったが負傷者は出なかった。
当時は雪で視界が悪く、通常離陸に使われるA滑走路は除雪のため閉鎖されており502便も大きく出発が遅れていた。
管制官から502便に対して出された"Expect immediate take-off"を離陸許可と思い込み離陸滑走を始めたが、前方の滑走路上には2503便がまだいた。
管制による停止指示により502便は離陸中止して2503便の後方1800mで止まったが、衝突したらテネリフェ事故に匹敵する大惨事になっていた。
悪天候による視界不良、出発遅延による乗務員の焦り、離陸許可の誤認、復唱確認不足などまさにテネリフェ事故と類似のシチュエーションにあった。


全日空61便 ハイジャック事件

1999年7月23日に全日空61便のB747-481D(JA8966, 1995年製造)がハイジャックされ、人質となった機長が殺害された事件。
この事件が空港の保安検査態勢を見直す契機となり、手荷物受取所に向かう通路に逆流防止ゲートが設置されるほか出発・到着動線の分離が進められた。


シンガポール航空6便 台北事故

2000年10月31日、台北・中正(現・桃園)空港にてシンガポール航空6便のB747-412(9V-SPK, 1997年製造, トロピカルメガトップ塗装機)が誤って閉鎖中の05R滑走路(現・並行誘導路)から離陸滑走して工事車両に激突、死者83名。
当時は台風接近による風雨で視界が悪く、本来の05L滑走路ではなく工事により閉鎖されていた05R滑走路に進入したことが原因とされた[3]。


UPS航空6便 ドバイ事故・アシアナ航空991便黄海事故

2010年9月3日、ドバイ国際空港を離陸したUPS航空6便のB747-44AF(N571UP, 2007年製造)が貨物火災によりドバイ市内に墜落、乗員2名が死亡。
その翌年2011年7月28日、仁川国際空港から上海浦東国際空港に向かって飛行中のアシアナ航空991便B747-48EF(HL7604, 2006年製造)が同じく貨物火災により黄海に墜落、乗員2名が死亡。
どちらの事故も貨物として大量に積載されていたリチウムイオン電池から出火したことが判明した。
リチウムイオン電池は小型大容量の携帯端末電源として普及が急速に進んだが、取り扱いの誤りによって発火しやすく消火が困難なことから航空輸送には厳しい制限がかけられることとなった[3]。


参考文献

1. 「BOEING JET STORY」 イカロス出版, 2009年
2. 「旅客機型式シリーズ5 Boeing747-400」 イカロス出版, 2001年
3. Aviation Safety Network


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